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中国山地のトンネルを抜けて緑の谷あいを走る特急スーパーはくとの車両
スーパーはくと大全 第1章

スーパーはくととは何か──京阪神と鳥取を結ぶ振り子特急の正体

特急「スーパーはくと」は、京阪神と因幡・伯耆をおよそ3時間台で結ぶ、山陰への最短ルートを担う列車です。まずは走る区間、所要時間、運行のしくみという基礎を押さえます。

中国山地のトンネルを抜けて緑の谷あいを走る特急スーパーはくとの車両
中国山地のトンネルを抜けて緑の谷あいを走る特急スーパーはくとの車両

特急「スーパーはくと」は、京阪神と因幡・伯耆をおよそ3時間台で結ぶ、山陰への最短ルートを担う列車です。まずは走る区間、所要時間、運行のしくみという基礎を押さえます。

京都から鳥取へ、山を貫く最短ルート

日本地図を見ると、京阪神と鳥取のあいだには中国山地が横たわっています。瀬戸内側と日本海側を結ぶ移動は「陰陽連絡」と呼ばれ、古くから鉄道にとって難所でした。山を越えるには遠回りするか、急勾配と急カーブに耐えるかのどちらかしかなかったからです。

特急「スーパーはくと」は、この難所をほぼ一直線に貫きます。京都駅を出て東海道本線・山陽本線を西へ走り、兵庫県の上郡(かみごおり)駅で進路を北に変え、智頭急行智頭線に入って中国山地をトンネルで抜け、鳥取県の智頭からJR因美線・山陰本線を経由して鳥取・倉吉へ至ります。

この列車の最大の特徴は、新幹線を使わずに、在来線だけで大阪〜鳥取をおよそ2時間30分前後で結んでいる点にあります。かつて同じ区間は3時間以上かかるのが当たり前でした。それが短縮されたのは、後述する新しい線路と、カーブで車体を傾ける特殊な車両の組み合わせによるものです。

基本データを整理する

まず、押さえておきたい基本情報を一覧にします。

項目内容
列車名特急「スーパーはくと」
主な運行区間京都駅 〜 鳥取駅(一部は倉吉駅まで延長運転)
経由路線東海道本線 → 山陽本線 → 智頭急行智頭線 → 因美線 → 山陰本線
運行会社JR西日本と智頭急行の共同運行
使用車両智頭急行 HOT7000系(気動車・振り子式)
主な停車駅京都・新大阪・大阪・三ノ宮・姫路・上郡・佐用・大原・智頭・郡家・鳥取・倉吉ほか
所要時間の目安大阪〜鳥取 約2時間30分前後/京都〜鳥取 約3時間20分前後
座席グリーン車・普通車指定席・普通車自由席

停車駅や運行本数、所要時間はダイヤ改正のたびに見直されます。表の数字は「だいたいこのくらい」という感覚をつかむための目安として読んでください。正確な時刻は、乗車する日の時刻表または各社の公式サイトで確認するのが確実です。

なぜ「スーパー」で、なぜ「はくと」なのか

列車名の「はくと」は、鳥取県に伝わる神話「因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)」に由来します。ワニ(サメ)をだまして海を渡ろうとした白兎が皮を剥がれ、大国主命に助けられるという、鳥取を象徴する物語です。京阪神から日本海側の因幡の国へ向かう列車に、その土地の神話の名を冠したことになります。

頭に付く「スーパー」は、JR西日本が高速・高性能な特急列車に用いてきた接頭辞です。同じ系譜には「スーパーいなば」「スーパーおき」「スーパーまつかぜ」などがあり、いずれも従来型の特急より速達性を高めた列車に使われてきました。スーパーはくとの場合、振り子式車両の投入によってカーブの多い区間でも速度を落とさずに走れることが、この名前の裏付けになっています。

なお、車両を保有する智頭急行の「HOT7000系」という形式名にも由来があります。Hyogo(兵庫)・Okayama(岡山)・Tottori(鳥取)という、智頭線が通る3県の頭文字を取ったものです。第三セクター鉄道が3県にまたがって成立した経緯が、車両の名前にそのまま刻まれています。

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プラレール S-63 智頭急行 特急スーパーはくと

4つの路線をまたぐという特殊性

スーパーはくとを理解するうえで欠かせないのが、この列車が複数の会社・複数の路線をまたいで走るという点です。

京都から上郡までは、JR西日本の東海道本線・山陽本線。上郡から智頭までは、智頭急行という第三セクター鉄道が運営する智頭線。智頭から郡家(こおげ)までは、再びJR西日本の因美線。郡家から鳥取、さらに倉吉までは山陰本線です。

つまり、1本の列車の中でJR西日本と智頭急行という2つの会社の路線を行き来していることになります。これは乗客にとって、次のような影響をもたらします。

第一に、運賃計算が区間ごとに分かれます。JR区間はJRの運賃体系、智頭急行区間は智頭急行の運賃体系で計算され、それを合算した金額が乗車券の値段になります。同じ距離を走るJR線内完結の特急と比べると、やや割高に感じられることがあるのはこのためです。

第二に、JRの企画乗車券やフリーきっぷが、そのままでは使えないことがあります。たとえば全国のJR線の普通列車が乗り放題になるタイプのきっぷは、智頭急行線内では別途運賃が必要になりますし、そもそも特急列車には乗車できません。JR西日本エリアの周遊型フリーパスについても、智頭急行線が対象に含まれるかどうかは商品ごとに異なります。

第三に、予約チャネルが実質的にJR西日本のシステムに集約されます。共同運行ではあるものの、指定席の発売はJR西日本の座席予約システムを通じて行われるため、後述する「e5489」やみどりの窓口が主な購入窓口になります。

このあたりの実務は第4章で詳しく扱いますが、「複数社をまたぐ列車である」という前提を頭に入れておくと、料金やきっぷの疑問がずいぶん解けやすくなります。

走行ルートを順に追う

実際の乗車体験に沿って、ルートを追ってみましょう。

京都〜大阪〜三ノ宮。京都駅を発車したスーパーはくとは、新快速も走る東海道本線を西へ進みます。この区間は複々線の高規格路線で、車窓は都市そのものです。新大阪、大阪、三ノ宮と主要駅に停まり、通勤・出張需要を拾っていきます。この時点では、まだ「山陰へ向かう列車」という実感はほとんどありません。

三ノ宮〜姫路〜上郡。神戸を過ぎると車窓に瀬戸内の気配が混じり始めます。姫路では姫路城を望むことができ、多くの乗客が入れ替わります。姫路から先は列車本数が減り、山陽本線らしい落ち着いた景色に変わります。そして上郡。ここが転換点です。

上郡〜佐用〜智頭。上郡で列車は山陽本線を離れ、智頭急行智頭線に入ります。ここから雰囲気が一変します。1994年に開業した新しい路線であるため、線形が良く、トンネルと高架橋が連続します。カーブでは車体がぐっと内側に傾き、振り子式であることが体感できます。途中の佐用(さよ)は姫新線との接続駅、大原は宮本武蔵ゆかりの地として知られ、駅名にも「宮本武蔵」があります。山あいの集落と、深い緑と、切り立った谷が次々に流れていきます。

智頭〜郡家〜鳥取。智頭で再びJR線(因美線)に入ります。ここから先はローカル線らしい単線区間で、千代川に沿って北へ下っていきます。郡家では若桜鉄道と接続。やがて視界が開け、鳥取平野に出ると、まもなく鳥取駅です。

鳥取〜倉吉。一部の列車はさらに山陰本線を西へ進み、倉吉まで足を延ばします。この区間では日本海が近づき、白壁土蔵群で知られる倉吉、三朝温泉の玄関口としての役割を担います。

3時間強の乗車で、都市・瀬戸内・山地・日本海側と、日本の地形の断面をそのまま横断することになります。これが、スーパーはくとが単なる移動手段以上の体験として語られる理由です。

誰がこの列車に乗っているのか

スーパーはくとの利用者層は、大きく4つに分けられます。

ビジネス利用。京阪神と鳥取を往復する出張需要です。朝の下り・夕方の上りに集中し、平日の一定時間帯では指定席が早めに埋まります。ノートパソコンを開いて作業する乗客が多く、電源とテーブルの使い勝手が重視されます。

観光利用。鳥取砂丘、鳥取城跡、白壁土蔵群、三朝温泉、そして冬の松葉がに。特に11月から3月にかけてのカニシーズンは需要が跳ね上がり、週末は満席になることも珍しくありません。

帰省・親族訪問。お盆と年末年始は、この列車が最も混雑する時期です。座席の確保が最も難しくなるのもこの期間で、発売開始と同時に押さえる必要があります。

インバウンド観光客。ジャパン・レール・パス等を利用する訪日旅行者にとって、鳥取は「混雑を避けられる日本」として一定の人気があります。ただし智頭急行が第三セクターであることから、パスの適用範囲には注意が必要です。この点は第5章で扱います。

スーパーいなば、はまかぜとの違い

鳥取方面へ向かう特急には、スーパーはくと以外にもいくつか選択肢があります。混同しやすいので整理しておきます。

スーパーいなばは、岡山と鳥取を結ぶ特急です。同じく智頭急行智頭線を経由しますが、起点が岡山であるため、山陽新幹線で岡山まで来てから乗り継ぐルートになります。東京方面から鳥取へ向かう場合、新幹線+スーパーいなばという経路が選ばれることがあります。

はまかぜは、大阪と兵庫県北部(城崎温泉・香住・浜坂)を結び、一部は鳥取まで足を延ばす特急です。播但線経由で日本海側に出るルートを取り、山陰本線を西へ進みます。所要時間はスーパーはくとより長くなりますが、城崎温泉や余部橋梁など、途中の観光地が異なります。

サンライズ出雲は、東京と出雲市を結ぶ寝台特急で、鳥取県内では米子・松江方面を通ります。鳥取市には停車しないため、目的地が鳥取市であればスーパーはくとが基本の選択肢になります。サンライズ出雲については当サイトのサンライズ出雲の料金と予約で詳しく扱っています。

つまり、京阪神から鳥取市・倉吉方面へ最短で行くならスーパーはくと、というのが基本的な使い分けです。

本章のまとめ

  • スーパーはくとは、京都・大阪と鳥取・倉吉を結ぶ在来線特急である。
  • 東海道本線・山陽本線・智頭急行智頭線・因美線・山陰本線という4路線を経由し、JR西日本と智頭急行が共同で運行している。
  • 名前は因幡の白兎に由来し、車両形式のHOTは兵庫・岡山・鳥取の頭文字である。
  • 大阪〜鳥取は約2時間30分前後。新幹線を使わずにこの速度を実現しているのは、新しい線形の智頭線と振り子式車両の組み合わせによる。
  • 複数社をまたぐため、運賃計算とフリーきっぷの適用範囲に注意が必要である。

次章では、この路線がなぜ生まれたのか、その歴史的背景を掘り下げます。「なぜ第三セクター鉄道が、特急街道になったのか」という問いに答えていきます。

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